白い魔女 6
白い魔女 6
隔離室の生贄
PROLOGUE
夢の森駅東口から、線路沿いを五分ほど歩くと、『夢の森病院』がある。
そこは外来患者の訪れる二階建てのA棟と、入院施設のある四階建てのB
棟の二棟から構成され、この二棟は向かい合っていて、渡り廊下で結ばれ
ている。それを俯瞰して見ればちょうど "コの字形" に見えるはずだ。
A棟とB棟の間は中庭になっていて、そこにはこの病院のシンボル的な存
在である、高さ二十メートルを越す大銀杏がその風貌を晒していた。
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夢の森病院院長『如月真弓』。その見目麗しき容姿は、医者にしておくに
は勿体無い程の美人だった。キリッと引き締まった顔に切れ長の目。その
瞳は氷のような光を放ち、薄い唇は酷薄な笑みを浮かべている。
時折後ろに撫で付ける肩より伸びた黒髪は、漆黒の光芒に輝いていた。
痩せすぎてはいないが、そのモデルのような体型から伸びた脚は、抜群の脚
線美を誇っていた。
そんな彼女のいる院長室は、B棟の四階の端にあった。
室内はドアを入って正面に院長の机、その右側の壁にソファとローテーブ
ル。そして反対側の壁には、大画面モニターが設置されている。南向きの
窓からは大銀杏のある中庭が見下ろせた。
普段この部屋を訪れる者はいない。がしかし、人目を忍んでこの部屋に通
う看護師がいた。彼女はこの病院の婦長を務める『御堂雪絵』。年の頃は
四十路の坂を半ばまで登った、経験豊富なベテラン看護師だ。
彼女がこの部屋に来るとき、それは大概が仕事終わりであり、滞在時間は数
時間に及ぶ。それはこの二人は昔から関係があり、ドMである婦長は、ドS
である院長に調教されにこの部屋を訪れているのだ。
ある時は女王様と奴隷、またある時は医者と患者。経験豊富な医学知識と医
療器具の揃ったこの環境は、自然と本格的な医療SMな世界を作り出す。
そして二人は、嗜好にあった患者を見つけると、二人でその患者を弄ぶこと
もしばしばだった。
そして今、仕事を終えた婦長御堂雪絵は、一階でエレベーターに乗ると四階
のボタンを押した。行き先は言うまでもなく院長室だ。
婦長が院長室に向かう、それは誰に見られても疑われることのない光景だ。
しかしこの部屋に入った二人が、その後どんな痴態を繰り広げているのか、それは職員患者を含め、誰も知らなかった。
「失礼します、院長……」
ドアを開けた婦長の雪絵は、一言そう断ると院長室に入った。
その後ろで静かにドアが閉まると、彼女は振り返って鍵を閉めた。
真弓は立ち上がると、まだ背を向けている彼女に歩み寄り、後ろからその肩
を抱いた。
「もう、雪絵、二人きりの時は名前で」
「でもまだドアが開いてたでしょう。だから……」
「もう、相変わらず用心深いのね」
「用心するに越したことないわ。こうして部屋に入ってしまえばこっちのも
のなんだから。そうでしょう」
「確かにね……」
肩を抱いていた真弓の手が、脇の下から乳房を包み込んだ。
「あらっ、ブラの上からでも乳首が硬くなってるのがわかるわぁ」
真弓の指が、ブラ越しに乳首を挟み込む。
「あぁん、真弓ぃ」
雪絵は真弓の腕の中でクルリと向きを変え、彼女と向き合った。
「さぁ、それじゃ今日も、醜態を晒してもらおうかしらぁ? 婦長さん」
「院長の御命令とあらば……」
それから二つの唇が触れ合うまで、時間は掛からなかった。