2ntブログ

あなたの燃える手で

Welcome to my blog

緋色の奥義

其の八
頭から烏を飲み込んだ椿の腹は、満月のように膨れていた。
そんな江ノ島における二人のくノ一の戦い、その勝敗は艶魔衆、淫靡衆それ
ぞれの谷に伝えらえていた。


艶魔衆の住む艶魔谷。その際奥部に建つ艶魔堂。
艶魔衆頭領『無空』が、 "椿勝利" の知らせを受けたのはたった今のことだ
った。無空は静かに立ち上がると、庭の池の鯉を眺めた。
「勝利したは椿か。そうか、よくやった。そなたなら間違いのう勝つと確信
しておった。されど奥義書は未だこの手にない。されば奥義書の行方は、残
りの二人、桔梗とお蘭に委ねられた」


淫靡衆の住む淫靡谷。その最奥部に建つ淫靡楼。
淫靡衆頭領『幻空』が、 "烏敗北" の知らせを受けたのはたった今のことだ
った。無空は静かに立ち上がると、庭木に止まる小鳥の声に耳を澄ませた。
「そうか、烏。お前のことじゃ、また油断したのじゃろう。お前の術は敵の
自由を瞬時に奪う故、それが油断につながる。あれほど油断大敵と念を押し
たものを……。されど奥義書が閻魔衆の手に渡った訳ではない。奥義書の行
方は、残りの百舌と梟に委ねられた」


由比ヶ浜と材木座海岸は一つの地続きの砂浜だ。その長さは二つの砂浜を合
わせても2.2km程だ。ただその砂浜のちょうど中央あたりを滑川(なめり
がわ)という川が流れている。その川を境に東を材木座海岸。西を由比ヶ浜
と呼んでいる。

さて、江ノ島で椿と烏の戦いのあった翌日の早朝。この滑川を挟んで、艶魔
衆の桔梗とお蘭、淫靡衆の百舌と梟の四人が向かい合っていた。
何も言わずとも、互いがくノ一ということはわかる。
「艶魔衆かい……」
「そういうお前は淫靡衆だね……」
「昨夜、江ノ島で鉢合わせしたようだね」
「どちらが勝ったにせよ、お互いまだ奥義書は手にしていない」
「確かに……」
「さてどうする、奥義書は昼にはこの海沿いの道を通るぞ」
「知れたこと、お前らを倒し、奥義書は淫靡衆の百舌がいただくよ」
「そうはいかないよ。奥義書はこの艶魔衆の桔梗がいただくのさ」
「桔梗……。お互い三十路と見た。どうだいあたしと一騎打ちというのは」
「構わないよ。後の二人は一足先に八幡宮へ行ってもらおうじゃないか」
「まったく若いもんはどこでも同じだねぇ。ところで、あたしたちはお互い
四十路ってとこかい?」
梟はお蘭の容姿を見ていった。
「そのようだねぇ。どれ、あたしたちの決着は八幡宮で……」
「そうだねぇ、そういうことにしようか……」
すると梟とお蘭の姿は、その場から一瞬で掻き消えた。
「さて、これで二人きりだ。……ヤルかい?」
「勿論さ」
百舌と桔梗はその場から搔き消えると、あっという間に滑川に架かる橋の下
へと移動した。
そんな二人を、海は静かに見守っていた。

Comments 0

Leave a reply

About this site
女が女をじっくりと、生殺しのまま犯していく。その責めに喘ぎ仰け反る体。それは終わり無き苦痛と快楽の序曲。     
About me
誠に恐縮ですが、不適切と思われるコメント・トラックバック、または商業サイトは、削除させていただくことがあります。

更新日:日・水・土