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あなたの燃える手で

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緋色の奥義

其の三
淫靡衆の烏が海面を歩いて江ノ島へ渡った頃、閻魔衆の椿は奥義書の一行の
宿の壁を、音も立てずに飛び越え庭に降り立った。

「だから言ったじゃん。こんなのチョロイってさ……。しかもこんなオンボ
ロ宿……」
椿は庭から宿の壁を亜尻上がり一階の屋根に、そして一行の止まる二階の屋
根へと飛び乗った。
「うふっ、綺麗な満月……」
そんな二階の屋根から満月を見ていた椿の姿が、烏の目に留まった。
「おやっ、おやおや、あれはぁ~?」
海を歩いて渡ってきたというのに、いかなる体術か烏の足は足の裏以外濡れ
ていない。
烏はそのまま宿の下まで来ると塀を飛び越え、椿と同じように二階の屋根へ
と飛び上がった。
「ねぇ、チョットあんた……」
「なによぉ、せっかくのお月見、邪魔しないでよぉ」
「そりゃ悪かったわねぇ」
そう言った次の瞬間、烏の手元から "黒い何か" が飛んだ。それは月光にわ
ずかに反射したのみで、とても人の目で追えるものではない。しかしその
"黒い何か" を、椿は宙で弧を描いて避けたのだ。
「やっぱりねぇ、あんた閻魔衆かい?」
「へぇ、するとお前は淫靡衆。あの奥義書かい?」
「違うと言って、信じるものでもあるまい」
そしてまた "黒い何か" が飛んだ。
椿はまた宙を飛び、今度は回転しながら一階の屋根、そこから庭へと一気に
降下する。
そんな椿を追いかけるように "黒い何か" は音もなく屋根瓦に突き刺さって
いく。
「やるねぇ、あんた。この暗がりであたしの毛針を避けるなんて」
見れば一階の屋根瓦にも、そして足元の地面にも、無数の黒い髪の毛のよう
なものが生えている。
「毛針? そうか。これはお前の髪の毛か。髪を針と化して飛ばす」
「そうさ、でもね、それだけじゃないよ」
「なに? うっ……」
次の瞬間、椿の四肢の動きが奪われた。それは知らぬ間に手足に巻きつい
た、一本の髪の毛によるものだった。その髪はそれぞれピンと張り、椿を操
り人形へと変えてしまった。
「ふふふっ、これが髪傀儡。さぁおいで、可愛がってあげるよ」
「お前は髪を飛ばすだけではなく、意のままに操れるのか」
「そういうことだよ。今頃わかっても遅いけどねぇ」

椿はジリジリと烏に向かって歩いていく。それは自らの意思ではなく、烏の
髪傀儡によって引き寄せられていくのだ。最初の髪に二本目が絡まり、そこ
に三本目四本目が更に絡まっていく。そうやって無数に絡まり合った髪は、
今や縄ほどの太さになっていた。
烏は人形と化した椿を、庭の岩陰に連れていった。

「もう逃げられないよ。さぁ、おいで。おやっ、よく見れば可愛い顔してる
じゃないか。あんた、あたし好みだよ」
「なっ、なんだと」
「さぁ、ゆっくりと可愛がってあげる。うんと可愛がって味わって、それか
ら始末してあげるよ。御誂え向きにここは江ノ島だ。腹を空かせた魚やカニ
がいっぱいいるだろうからねぇ」

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女が女をじっくりと、生殺しのまま犯していく。その責めに喘ぎ仰け反る体。それは終わり無き苦痛と快楽の序曲。     
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更新日:日・水・土