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あなたの燃える手で

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水蜜楼別館離れ


茜色だった山の稜線は、もうすっかり闇に閉ざされている。
夕食を済ませた奈津は、一人離れで女将を待っていた。
"トントン" と小さなノックが聞こえたのは、夜8時過ぎだった。

「花村様。女将でございます」
「あっ、はい。どうぞ……」
「失礼いたします」
かしこまって入って来た女将は、奈津にペコリと頭を下げた。
「今日の業務は全て終了しました」
「そうなんですか。それじゃゆっくりできますね」
「はい」
そう言って女将は妖艶に微笑んだ。

なんだろう。昼間より女将の妖艶さが増している気がする。その目は心なしか
しっとりと濡れ、物腰も話し方も、話す声すらどこか色っぽく感じる。全てが
絡みつくような、まるで無数の触手を伸ばすイソギンチャクのようだ。
ならばあたしは魚。無数の触手に絡め取られ、逃げられなくなった魚だ。
藻搔いても藻搔いても逃げることはできない。イソギンチャクにゆっくりと食
べられていくのだ。ゆっくりと、ゆっくりと……。

「よろしければ、ご一緒に温泉に……」
「あっ、そうですね。一緒に入りましょう」
二人はどちらともなく服を脱ぎ全裸になった。奈津はそんな行為に不思議に抵
抗を感じなかった。
内風呂から露天風呂に出ると、奈津が先に湯に浸かった。
するとすぐに、女将が奈津の左隣にその身を沈めた。
見目麗しいとはこのことか。陶器のような白い肌。柔なかな女性らしい曲線。
大きな胸、くびれた腰。そして綺麗な脚線。それらはどれも、奈津が想像した
通りのものだった。
三十代の奈津と四十代の女将。年齢差はちょうど一回りくらいのはずだが、女
将の肌はそれを感じさせない張りと艶があった。

「女将さんの肌、綺麗ですね。羨ましぃ」
「あらっ、花村様だって……」
「そんなっ、あたしなんて」
奈津が左腕を水面に伸ばすと、サラリとした湯がその腕を洗う。
「そんなご謙遜を……、お綺麗ですよ、とっても」
女将はその腕を撫でた。
「そうですかぁ?」
「そうですよぉ」
女将の手は手首から肘、肘から二の腕へと移動していく。
「ほらっ、こんなに綺麗」
そんな女将の手は肩から首へと移り、耳の後ろからうなじに沿って首の後ろへ
と回り込んでいく。
「あぁん」
「あらっ、可愛い声ですね」
「だって、女将さんが……」
「いいんですよ、離れは完全な個室ですから」
「えっ……?」
「ここでどんなことが起こっても、誰にも見られませんし、誰にも聞かれませ
ん。だから大丈夫」
「それって……」
どう言う意味? と言い掛けた奈津は、女将の次の言葉で沈黙した。
「さっきの声、もう一度聞かせて」

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女が女をじっくりと、生殺しのまま犯していく。その責めに喘ぎ仰け反る体。それは終わり無き苦痛と快楽の序曲。     
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更新日:日・水・土