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あなたの燃える手で

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水蜜楼別館離れ


茜色に変わった山の稜線に向かって、数羽の鳥が飛んでいく。
露天風呂の小さな椅子に座った奈津に、女将は後ろからそっと湯を掛けた。
それは和服を着ている自分が濡れないようにと、そんな感じの掛け方だ。
仄かに硫黄の香る湯が奈津の肌を滑り落ち、石の床をサラサラと流れていく。
「さっ、こちらへ」
女将は奈津の手を取り、岩風呂へと導いた。
「どうぞ、お入りくださいませ」
「はい……」
奈津は片手を女将とつなぎ、もう片手で前を隠しながら片足を湯に付けた。
「あっ、結構熱いですね」
「そうですね。最初は……。でもすぐに慣れます」
奈津は腰まで湯に浸かると、そのままゆっくりと腰を下ろした。
「いかがですか?」
「あっ、本当。だんだん慣れてきました」
「この温泉は単純温泉なんですが、その中でもアルカリ性単純温泉に分類され
まして……」
「アルカリ性単純温泉?」
「はい、単純温泉の中でもPH8.5以上の温泉はアルカリ性単純温泉に分類され
ます。この泉質はお肌が滑らかになる美肌の湯としても有名なんです」
「そうなんですか」
「はい」
「他にも不眠症やうつ病にも効果があるとされています」
うつ病……か。ちょっと落ち込んでいる自分にはちょうどいいかも、と奈津は
思った。
「女将さんも一緒に入れたらいいのに……」
これはさすがに言い過ぎかと思ったが、女将の答えは意外なものだった。
「そうですか。それではお夕食の後、よろしければ……」
「本当ですか」
「えぇ」
「それじゃ、是非……」
「わかりました」
そう言って、女将は妖艶に微笑んだ。

この予想外の展開に奈津はちょっと驚いていた。あまさか本当にこんなことに
なるなんて。
女将は間違いなく同性が好きだ。学生時代長い間女の園にいた奈津にはその確
信があった。奈津自身、女同士での経験はないが、どちらかと言うとそう言う
人からは好かれるタイプのようだ。その自覚はある。
だから今まで何度かそう言うお誘い的なものは経験がある。しかし、いざコト
に及ぶとなるとやっぱり尻込みしてしまう。
まぁ、当然だろう。人としての理性というか、性別の壁というか、そんなもの
が立ち塞がるからだ。
しかし、でも、女将さんとなら……。
何故だろう。どうしてだろう。何故かおかみさんとなら、その一線を超えてし
まうような。いや、あえて言うなら超えられるような。そんな気がするのだ。
やっぱりあたしには、そういう血が流れているのだろうか……。

女将が下げた頭を戻すと、そんな奈津の心を見透かすように微笑みかけた。
「それでは、今夜お夕食の後にお邪魔いたします。長旅でお疲れでしょうか
ら、マッサージでもいたしましょう。それでは一旦失礼いたします」
女将はまた妖艶に微笑み、ねっとりと絡みつくような目で奈津を見た。

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女が女をじっくりと、生殺しのまま犯していく。その責めに喘ぎ仰け反る体。それは終わり無き苦痛と快楽の序曲。     
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更新日:日・水・土