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あなたの燃える手で

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深夜バス

15
あたしの絶頂、それは幻のように消えてしまう波。
でも、消えるとわかっていても、あたしはその波にのまれずにはいられない。
だってそれが、あたしが逝くことのできる唯一の方法なのだから。
しかしそれは、みどりさんの指先ひとつにかかっている。彼女の指先が止まる
だけで、あたしはまた逝くことができなくなってしまうのだ。

「んん~、ほぉ~らっ、ほぉ~らっ逝きたい。あぁ~らまた逝けないわねぇ」
「ふひいぃぃ~、ふぃかれてっ、ふぃかれてぇくらはい~」
「逝きたいの? そう、いいのよ逝っても、ほらっ、ほらほらっ、逝けるものなら逝ってみなさい。ほらっ、ほらほらほらっ……」
「ふぐぅ~、ふひぃぃ~。ふぁ、ふぃくっ」
「ほらっ、逝きそう、ほらっ、もうちょっと、んん~すごい締め付け」
「ふぃくっ、ふぃくっふぃくっ、ふぃくぅぅ~」
「まだよぉ~、まだまだ。あぁー逝きそう、ほぉ~らっ、ほぉ~らっ」
「ふぃくぅ、ふぃくっふぃくっ、ふぃくぅ~」
「あぁーもう少しで、ほぉ~らっ、あぁー逝っちゃいそうねぇ」
「ふぃくっ、ふぃくっふぃくっ、もうふぃくぅ~」
「んん~ここでストップ。あぁーその顔、可愛いわぁ。もっとよく見せてぇ」

そしてあたしは、それからも何度も焦らされて……、でもようやくその時がやってたのです。
「さぁ、それじゃそろそろ最終楽章に……。もういい時間だし。少しは寝ないとね」
「ふぁ、ふぁい」
「それじゃ逝かせてあげる。いいわよ逝っても……。逝き顔もしっかりと見せ
てもらうわ」
その直後、あたしは大きな大きな波に包まれた。
「ふぃくっ、ふぃくっふぃくっ、ふぁぁ~ふぃくっふぃくっ、ふぃくぅ~」
波は消えずに、あたしを絶頂の極みへと連れて行ってくれた。
それは焦らされた分強く、長く、最高の快感となってあたしの中で弾けた。
「うふふっ、可愛い。それに逝った時の結衣ちゃん。とっても綺麗だったわ」
そう言ってみどりさんは、あたしを優しく抱きしめてくれたのだ。


何時に寝て、何時に起きたのだろう。
窓の外は明るくなり、景色は見覚えのある金沢の景色へと変わっていた。
程なくバスは金沢駅へと到着した。バスを降りた僅かばかりの乗客は、それぞれの場所へと散っていく。

あたし達は、駅前のタクシー乗り場まで並んで歩いた。
彼女は予約したホテルに、あたしは実家まで、それぞれ別のタクシーに乗って
いくことになる。
「どうぞ、先に行ってください」
あたしは客待ちをしていたタクシーを彼女に譲った。
「ありがとう」
その言葉とタクシーのドアが開くのが一緒だった。彼女は後部座席に腰掛ける
と、バッグを隣に置いた。
「それじゃね。結衣ちゃん。楽しかったわ」
「あたしもです」
ドアが静かにしまった。すると彼女が窓を開けた。
「もしまた会えたら、その時はまた楽しみましょう」
「はい」
「ホントよ。その時はもっと楽しませてもらうわよ」
「はい。あたしも。今度はもっとゆっくり広いところで……」
「まぁ、言うじゃない。それじゃ……」
彼女の言葉はそこで途切れたが、その口は確かに "またね" と言っているよう
に見えた。
お互い連絡する術は何もない。また会うには全くの偶然にでも期待するしかな
いのに。……何故。

みどりさんは乗って行ってしまった。
いったい何だったのだろう。心にポッカリと穴が空いたあたしは、小さくなっていくタクシーを見送るように、その場に一人立ち尽くしていた。



EPILOGUE

翌日、あたしは買い物に行くため商店街を歩いていた。すると真新しいポスタ
ーが目に付いた。


ーーー

神の指先を持つ女。
世紀のジャズピアニスト・北条虹子・5年ぶりの来日

ジャズに人生を捧げ、いまだシングルを貫き、その人生をジャズに捧げ続けている北条虹子。
彼女の来日コンサートが、この金沢の地を皮切りにスタートする。
昨年末に行われ、大盛況だったロンドン公演の後、5年ぶりの来日を果たした
彼女は、この春全国ツアーのスタートを切る。この金沢での~

ーーー


かなり暗い照明の中で、グランドピアノにスポットライトが当たっている。
背景もピアノの周りもかなり暗い感じだが、そこが何処かのステージなのは分かる。しかしあたしの目を引いたのは、そのピアノの前にたたずむ一人の女性だった。
グランドピアノの前に立つ女性。舞台衣装と少し派手目のメイクではあるが、
見間違えるはずがない。それは、紛れもなくみどりさんだった。
ピアニスト、それも世界的なピアニストなら、あの繊細な指先使いも分かる気
がする。彼女はロンドンから帰り、全国ツアーのスタートを切る、この金沢で
のコンサートをやるためにあのバスに乗ったのだろう。
あたしは嬉々として、買い物リストにコンサートチケットを加えた。

あたしの脳裏に、昨日のタクシーでの別れ際、彼女の口が "またね" と動いた
記憶が蘇った。



ーENDー


Comments 1

ken  
その後が・・・

ぜひ、シリーズ化してほしいです。

2016/05/17 (Tue) 17:00 | EDIT | REPLY |   

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女が女をじっくりと、生殺しのまま犯していく。その責めに喘ぎ仰け反る体。それは終わり無き苦痛と快楽の序曲。     
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更新日:日・水・土