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あなたの燃える手で

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深夜バス



あたしの反対側に座った彼女は、一度立ち上がるとダウンを脱いだ。そして小
ぶりのバッグを収納ボックスに入れると、二つ折りにした黒いダウンを隣の席
に置いた。
そんな彼女の一連の動作を、あたしは横目でチラチラと見た。
年の頃は30半ば……? だろうか。30歳のあたしより年上なのは確かだが、
それが2つなのか3つなのか、それともそれ以上なのか。その辺のことろはな
んとも摑みどころがない。
ゆるく波打つ黒髪は背中の中程まであり、ダウンを着ている時はわからなかっ
た胸は大きく張り出し、膝上のスカートから見える足はスラリと伸び、今は広
いシートの上でセクシーに組まれている。
そして何よりも、あたしを釘付けにしたのは彼女の顔だ。
面長で白い肌。意地悪そうな切れ長の目は、どこか優しい光も湛えている。
酷薄そうな薄い唇には、強目の発色の口紅が塗られ、その唇がこれまた意地悪
そうに微笑んでいる。初対面の人をそんな風に見てしまうのは、あたしが根っ
からのMだからだろうか。
しかしあたしは、こんなSっ気を感じさせる女性にグッときてしまうのだ。

その時白い車体がブルッと震え、バスのエンジンが掛かった。
「当バスは、〇〇駅発、金沢行きでございます。金沢には明朝8時着を予定し
ております」
その他これからの予定等のアナウンスが終わると、バスはゆっくりと走り出し
た。それはまだ眠い目をこすっているかのような感じだったが、4車線の幹線
道路に出ると、バスは目を覚ましたかのように加速を始めた。
スピードを上げても車内は驚くほど静かで、振動も優秀なシートが全て吸収し
てくれる。これだけ乗り心地が良ければ、カーテンさえ閉めてしまえば、そこ
は即寝室へと変わっていしまいそうだ。

しばらくすると、いつのまにかバスは高速道路を走っていた。次々にすれ違う
ライトが、金色のビー玉のように転がっていく。
左端の座席へと目をやれば、彼女も窓外へと目を向けていた。そこには無機質
で無秩序な都会の夜景が、サラサラと後ろへと流れている。
そんな窓に映る彼女の目は、ちょっと寂しそうで疲れているようにも見えた。
あの人は何を想っているのだろう。いくつものビー玉を目で追いながら、あた
しはそんな事を考えていた。
「そうだ……」
あたしはふとバーボンの事を思い出した。あの小瓶は隣の席に置いたコートの
ポケットの中だ。あたしはコートのポケットを探った。
「あれっ……? 反対?」
小瓶を入れたポケットを左右間違え、あたしは改めてコートに手を伸ばした。
あたしはその時、そんな自分を見つめる彼女の視線に気がついた。
突然のこととはいえ、あたしはちょっと苦笑いで会釈をした。そんな顔になっ
たのは、ポケットを探ってるのがカッコ悪いのと、しかもそれが左右を間違え
てやり直し。そんなバツの悪さからだ。
しかし彼女は、そんなあたしに優しく会釈を返してくれた。彼女はあたしが困
っていると思ったのか
「探し物ですか?」
と声をかけてくれた。
「えっ、えぇ……」
さらにバツが悪そうになった時、右手がようやく小瓶を握り、それをポケット
から引き出した。
「これをちょっと」
指先で摘むように持った小瓶を、あたしは彼女に見せた。
「あらっ、LOVE ROSES 。それならあたしも……」
「えっ?」
「ほらっ……」
なんと彼女は、まるで手品のように同じLOVE ROSES の小瓶を出し、それを
あたしに見せたのだ。

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女が女をじっくりと、生殺しのまま犯していく。その責めに喘ぎ仰け反る体。それは終わり無き苦痛と快楽の序曲。     
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更新日:日・水・土