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あなたの燃える手で

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深夜バス




~深夜バス~



PROLOGUE 
時刻は夜の10時半を回ろうとしている。
こんな時間にあたしは、実家の金沢に帰省するため、あるバス停に向かって歩
いている。そのバス停は、東京を夜中に出発する深夜バスのバス停だ。
頬を撫でる風は冷たく、道の隅には一昨日の雪がまだ残っている。
冷えた手をコートのポケットに入れると、バーボンの小瓶が手袋越しに指先に
触れた。『LOVE ROSES 』今夜はこれでも飲んで、ぐっすり寝てしまおう。
そう思ってさっき買ったものだ。
あたしは小瓶を指先で弄びながら、バス停への角を曲がった。



やっと終わった、これで何もかも。もう思い残す事は何もない。
これで苗字も、旧姓の牧田に戻ったのだから……。

私が離婚した理由。それは夫との、いや彼との生活はすれ違いが多すぎたこ
と。そして彼との夜の営み。いわゆる "性格の不一致" というやつだ。
彼はいつも一方的で、それは事務的でさえあった。彼は自分だけの満足で終わ
り、あたしの満足などいつもそっちのけだった。だからあたしはいつも、その
後で自分で慰めていたのだ。
しかしそれだけが離婚の理由ではない。
これは親兄弟はもちろん、今回相談に乗ってくれた親友にも言ったことはない
のだが……、実は私は同性愛者なのだ。
だから夫との営みは、いつもどこか嫌悪感がつきまとっていた。
故に彼との営みも当然減る。しかしそんなことにも慣れっこになっていたあた
しが、事ここに及んだのは、長年の鬱積と我慢の限界だったのかもしれない。


角を曲がると、50メートルほど先に白いバスが見えてきた。
星空の手前で、あたしにお尻を向けたバスは、エンジンが掛かっていないせい
か、少し寂しそうに見えた。
近づくほどに白一色と思っていた車体に、ピンクの細いラインが引かれている
事に気がついた。そのラインはやがて7つの角を作り出し、バスの真横を通り
かかる頃、それがようやく北斗七星だと気づかせてくれる。
そしてその下には、これまたピンクの文字で。PORARISと書かれている。
『女性専用深夜バス ポラリス』。それがこのバスの正式名称なのだ。
幾つかの窓にはカーテンが引かれ、既に何人かが乗車しているようだった。
あたしは生まれて初めての深夜バスに、最初の一歩を踏み入れた。

車内は水色のシートが4列に並び、その背もたれにもピンクの北斗七星が描か
れており、全体的にはかなりゆったりとした印象を受けた。
左右2列づつの真ん中を歩き、あたしは一番後ろから2番目の右側に座った。
コートは隣の席に、バッグは収納ボックスに入れてしまえば邪魔になる事もな
い。もちろんポケットからバーボンの小瓶を出すのも忘れなかった。
シート座れば、前の座席の背もたれには化粧直しのミラーがあり、シートの下
にはレッグレストがあった。それには温熱ヒーターとマッサージ機能が付いて
いるようだった。この辺はいかにも女性を意識したデザインと機能だった。

発車時刻の11時まで、あと10分を切った。
バスには10人ほどの乗客しか乗っておらず、もうこれ以上は乗ってこない
ようだった。
「なんだかこれじゃ、ほとんど貸切みたいなもんね」
年末や夏休みなら兎も角、なんでもない平日ではこんなものかもしれない。
そんな事を思っていると、1人の乗客が乗ってきた。おそらくこの人が最後の
1人だろう。
そんな彼女と一瞬目があった。でもあたしはすぐに視線を逸らした。
黒いダウンでシートの間を器用に歩きながら、彼女はみるみるあたしのいる後
部まで歩いてきた。
そしてあたしと同じ後ろから2番目の、通路を挟んで左側の窓側へと着席した
のだ。他の席もこんなに空いているのに何故。そんな疑問もよぎったが、彼女
を見た途端、そんな疑問も喜びに変わった。それは彼女があたしのタイプだっ
たからだ。

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女が女をじっくりと、生殺しのまま犯していく。その責めに喘ぎ仰け反る体。それは終わり無き苦痛と快楽の序曲。     
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更新日:日・水・土