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あなたの燃える手で

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怪盗ムーンライト


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「まず犯行予告日は土曜日の昼で、それは1番混雑が予想される日だったわ。
でもあたし達は搬入時から護衛を付け、完璧を期して搬入を終えた」
「えぇ、そうね」
「ルビーはガラスケースに入れられ部屋の中央に置かれた。24時間の監視体制
に防犯カメラ、赤外線感知に重量感知などの措置も取られた。そしてもし感知
器が作動すれば、警報音が鳴る仕組みになっていた」
「えぇ」
「そして当日。館内は予想通りかなりの混雑だった。そして12時。展示室内
で数本の発煙筒が炊かれた。廊下にまで充満した白煙は、隣の人の顔も見えな
いくらいに濃密だった。警報音は鳴らなかったけど、警官は煙でパニックに
なった客と混ざり合ってしまった」
「煙が晴れたとき、『アルセーヌの瞳』という名のルビーは煙と共に消えてい
た。代わりに台座には、月光からの礼状が置かれてた。ってことよね」
「そうね。スグにドアが閉められ、客の所持品チェックが行われた。しかしル
ビーは見つからない。一体ムーンライトはどうやってルビーを盗んだのか?」

奈緒子はまるでクイズでも出すような言い方をすると竜胆を見た。
「うん。どうやって盗んだの……?」
「まず、ジェシカことムーンライトは、ケースに一番近い所で発煙筒が炊かれ
るのを待つ。彼は刑事だからそこにいてもなんの不自然さもない。そして相棒
が発煙筒を数本炊く」
「当然展示室内に煙が充満する」
「そう、そしてムーンライトは警報装置を切りルビーを盗む。ジェシカとして
潜り込んでいたムーンライトは、警報装置のスイッチの場所も切り方も知って
いて不思議はない。そして指紋認証も、日頃一緒にいるあなたの指紋を入手す
ることは簡単だったはずよ。その指紋を装置が認識するように加工する」
「そんなこと、出来るの?」
「出来たのよ、世界を股に掛ける怪盗には。きっと今までも何度か指紋認証を
破ったコトがあったのかも知れないわね」
「確かに……」
「あとは礼状を置いてその場を離れるだけ」
「なるほど、それで」
竜胆は奈緒子に続きを促した。
「展示室のドアが締められ、持ち物検査が始まるけど、本物のルビーはジェシ
カが持っている。刑事である彼女は当然検査はされない。客として入場してい
た相棒は普通に検査をパス。もちろん入場チケットも異常はない」
「なるほど……」
「やがて持ち物チェックが済み、相棒は他の客達と一緒に帰され、ジェシカは
あなた達と署に戻る」
「それじゃ、あの時ルビーはジェシカが持っていたの?」
「そういうことになるわね、多分ポケットにでも入れてたんじゃないかしら」
「そんな……、あの時ルビーが目の前にあったなんて」
「まんまとやられたってワケ……」
「結局『ルパンの涙』も『アルセーヌの瞳』も、『クラリスの首飾り』も全部
盗られて、ムーンライトの事で新たな情報も無し……ってワケね」
「そうでもないわよ。あの髪はカツラ。目の色もカラーコンタクト。でも彼女
の話した日本語、あれは完全に日本人のモノだったわ」
「じゃ、ムーンライトは日本人?」
「その可能性は大きいわ。ただ、あのネイティブな英語からするとハーフの可
能性も捨てきれないけど。そしてムーンライトは女だってコトもわかったわ」
「女……」
「今までは性別すら分からなかったんだから大きな収穫よ。それに彼女……」
ムーンライトはレズビアンだ、と言おうとして奈緒子はやめた。
これは自分だけが知っている彼女の秘密として、そって胸にしまった。


EPILOGUE
そして数週間後。

「竜胆さん」
「んん? なんだカンナ」
「これ、この記事。これってもしかして……」
カンナは手にした新聞を竜胆の横で拡げた。
「ここです」
竜胆はカンナの指差す記事を読んだ。

記事を要約すると、東南アジアの数十の施設や病院に多額の援助資金が送ら
れ、それにより多くの子供達の命が救われたとある。
送り主の名は『月の光』。
そしてその記事には、幸せそうな笑顔を浮かべる子供達の写真が載っていた。


ーENDー


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女が女をじっくりと、生殺しのまま犯していく。その責めに喘ぎ仰け反る体。それは終わり無き苦痛と快楽の序曲。     
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更新日:日・水・土