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あなたの燃える手で

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怪盗ムーンライト


彼女は昼間のジャージ姿のまま、ガラスの向こうで小夜のテーブルを指差し、
そこに行ってもいいか? と言っているようだった。
最初は驚いた小夜だったが、その少女が思いのほか可愛かったこと、そして自
分の記憶よりずっと子供だったことが警戒心を緩めた。
小夜は彼女に向かってニッコリと微笑むと、大きく頷いて見せた。
それを見ると彼女は満面の笑みを浮かべ、店の入口へと回った。
彼女は上下ジャージということで、入口のボーイと何か言い争っていたが、小
夜に向かって手を振ったとき、小夜が手を振り替えしたことでボーイも渋々納
得したようだった。
彼女は少々不満そうな面持ちのボーイに案内され、小夜の座るテーブルにやっ
てきた。そして小夜と向かい合って座った。
「&ei=UTF-8&fr=t」
「えっ? なに?」
「sa&x=wop_ga*1r>t」
「チェコ語……?」
そうだ、ここはチェコ。当然言語はチェコ語になる。
「ごめんなさい、チェコ語じゃ分からないわね」
「えっ? あっ、ドイツ語……」
突然彼女がドイツ語で話し出した。
「ドイツ語なら大丈夫?」
「えぇ、あたしは父の仕事の関係で、英語とドイツ語と日本語は話せるわ」
「まぁ、3カ国語も。凄いのね。あたしはチェコ語とドイツ語だけ」
「あなただって、二カ国語話せるなんて」
「チェコの人間の9割は外国語が話せるの。だからドイツ語で話しましょう」
「そうね……。それで、あなた昼間……」
「あぁ、あれね。実はサーカスに忍び込んで、ちょっとね」
「ちょっとって……。泥棒とかって、言われてたけど……?」
「まぁ、そんなもんね」
「えっ、ホントに?」
「だって、あのサーカスが全然お金を払わないからイケナイのよ」
「えっ?」
「もう3ヶ月分も貰ってないわ。ボランティアじゃないっつぅ~の。ねぇ~」
「えぇ、でも、だからって……」
「あたし両親いないし、弟と妹はまだ小さいし。なんとかおばあちゃんの家で
暮らしてるけど、そのおばあちゃんも病気で。だからお金がいるの」
「そう……、そうなの……」

それにしてもなんて可愛い子だろう。外人特有な大きな瞳、優しくも甘いマス
ク。綺麗な栗毛色の髪。スタイルだって悪くない。日本にいたら間違いなくス
カウトされるだろう。

「あっ、そうだ、まだ名前聞いてなかったけど、あなた日本人でしょう」
「えぇ、そうよ。あたしは音無小夜」
「そう、あたしはアンナ・ヘルツィゴヴァ。ちょっと言いにくいでしょう」
「でもアンナならそうでもないわ」
「あたしこう見えてもクウォーターなの。日本人の血が4分の1入ってるの。
それにね、もしかしたらあたし、日本で暮らしてたかも知れないんだよ」
「ホント?」
「うん。もし日本で暮らしていたら、その時の名前もあったんだって」
「なんていうの?」
「えぇ~っと、確かマ・ド・カ。そうマドカだ」
「マドカって、こんな字だった?」
小夜はメモ帳を出すと、そこに『円香』と書いて見せた。
「うぅ~ん、漢字はわからないわ、小夜……」
「そうよね、ごめんね。漢字だもんね」
小夜はメモ帳をバッグにしまった。

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女が女をじっくりと、生殺しのまま犯していく。その責めに喘ぎ仰け反る体。それは終わり無き苦痛と快楽の序曲。     
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更新日:日・水・土