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あなたの燃える手で

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こちら夢の森探偵社

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「わたしとしては、今回のことは警察沙汰にはしたくないのですが……?」
エマは耳に神経を集中させ、チラリと天井を見た。
「そうね、あたしも警察沙汰にはしたくないわ。この学園のためにもね」

今回の依頼主。この「夢の森探偵社」、最初の仕事を依頼した人物。それは
「夢の森女子学園」の学長、雪柳琴美だった。
琴美は奈美の素行調査を依頼し、この学園の教授にふさわしい人物かを見極め
る為の、資料の1つにしようとしていた。
依頼主が、自分の母校の学長だったのは偶然だが、エマはそれが初仕事として
ふさわしいと感じた。
ただ、その内容をリンダに黙っていたのは、琴美の性癖をエマが知っていたか
らだ。
素行調査は表向き、実際は奈美の浮気調査と言ったところだったろう。
琴美自身、軽い気持ちでの依頼だったかもしれない。しかし若村エリの存在が
明らかになり、奈美のストーカー事件までもが浮かび上がってきた。
幸い警察への届けは思いとどまった琴美だが、奈美はおそらくあの学園にいら
れないだろう。

では何故、エマが琴美の性癖を知っていたのか?
それはエマが学生時代、琴美と関係を持っていたからだ。
そう、ちょうど奈美とエリのように。
それ故に、リンダにも言いづらかったという一面がある。

「ねぇ、エマ。どう? 久しぶりに会わない?」
「はぁ、あいにく多忙なもので……」
「そう、残念ね」
「これまでに撮った、彼女の写真と捜査資料をお送りします」
「ええ、お願い」
「ねぇ、エマ本当に……」
「わたしもあの学園を卒業して依頼、色々ありました。もうあなたとは……」
「そう、そうね。……ごめんなさい」
少し小さく聞こえたその声が、琴美の最後の声となった。
「それでは、これで失礼します」
通話が途切れると、束の間の沈黙が流れた。
「わたしは北島奈美の替わりではないのだよ……、雪柳学長」
エマは携帯をポケットに入れると、再びカレーうどんを食べ始めた。

数週間後、奈美は学園を去った。
その後の彼女の消息は誰も知らない。



「リンダ、リンダ……」
「はぁ~い、なんですかぁ? お昼はまたカレーうどんにしますぅ?」
エマに呼ばれたリンダが、事務所に入ってきた。
「君にプレゼントだ」
「プレゼント?」
エマは綺麗にラッピングされ、赤いリボンの付いた小さな箱を渡した。
それは何処かで見覚えのある大きさだった。リボンをほどき、ラッピングを開
いていくうちに、リンダの頭にある記憶が蘇ってきた。
「これって、もしかして……?」
蓋を開けると、中には名刺が入っていた。
「やっぱり」

>夢の森探偵社
>林田 鈴 RIN HAYASHIDA

「あっ! これって……。見習いの字がなくなってる」
「フフフッ、気が付いたか。これで見習い卒業という意味だぞ」
「なるほど……。でもコレ、もう少し早く欲しかったなぁ」
「なんでだ?」
「見習いって書いてある名刺、エリちゃんに渡しちゃいましたよ」
「いいじゃないか、それはこの世に流出しているただ1枚のプレミア名刺だ」
「なんですかそれ、よく判りませんから。お昼はカレーうどんでいいですね」
「あっ? あぁ、それでいい」
「それじゃ、あたしもカレーうどんにします。エマさんの弟子として……」
リンダは携帯でカレーうどんを2つ注文した。
「いいかリンダ。カレーうどんというのはなぁ、華麗に食べるものなのだよ。
君に判るか? この微妙な関係性が……」
「出た、どこでも歌劇団……」
リンダはエマに背を向けクスリと笑うと、手の中の名刺を見つめた。

「ありがとうございます。エマさん」



☆P.S
その日の深夜、エマはクローゼットから服を出した。
それは明るいグレーのスーツに、同色のミニスカートだった。
それらを身につけると、下に置いてある箱から、腰まであるストレートの
髪のカツラを付け、首元にどこかの有名な香水を振りかけた。
顔はメイクのせいか ”どこか気の強そうな人" といった感じを受ける。
「おっと、コレもか……」
箱の隅にあったジッポとタバコを持つと、そのまま事務所に移った。
そしてカーテンを開け、ガラスに全身が映るように椅子に座ると、素早く足を
組んでジッポでタバコに火を点けた。

エマは改めてガラスに映った自分を見た。
人によっては、”あの人Sだな” っと思うかもしれない。そんな物腰だ。
「このウイスキーを水割りで。それとスロープシャーブルー……」
エマは1人微笑んだ。
「これで水割りとスロープシャーブルーがあれば完璧か。森川楓。わたしにしては地味な名前だったな」
エマはガラスの中の森川楓に向かって、タバコの煙を吹きかけた。


ーENDー



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女が女をじっくりと、生殺しのまま犯していく。その責めに喘ぎ仰け反る体。それは終わり無き苦痛と快楽の序曲。     
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更新日:日・水・土