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あなたの燃える手で

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Lost Memory

LOT MEORY


プロローグ
西暦2110年。医学は飛躍的な進歩を遂げた。
高精度な技術に裏付けされた医療機器は迅速かつ正確なオペを、ウイルスの追
随を許さないワクチンは、新たなウイルスの誕生を完璧に押さえた。
難易度の高いオペ、世界の驚異となる病気、原因不明の精神疾患など、そのほ
とんどがこの世から根絶されようとしていた。
しかし100年前から続く医師不足、それは依然深刻な問題を抱えていた。

そんな時代、一つの財団が直面する医療問題に立ち上がった。
『ドリームフォックス財団』
潤沢な私財で世界平和のために、今の医療を科学の面から貢献しようと作られ
た組織だった。その財団の研究施設がここ、リリーヒルズの地に作られた。

『ドリームフォックス財団・リリーヒルズ科学研究所』
この施設の最上階にあたる20F、Room.No.2009 に1人の記憶を無くした女
性が収容されていた。


01
その日の朝、メイは鳥の戯れる声で目を覚ました。
時計の針は9時を回っている。
メイはベッドから起き上がると朝日で白く光るカーテンを開け、遠く残雪を残
した青い山脈を見つめた。
南側にある小さなバルコニーに出ると、たゆたう波のような緑の丘が、この建
物を囲むように広がっているのが見える。
その丘の真ん中を蛇のようにくねる道が貫き、その道が窓の下まで続いている
のが眼下に見下ろせた。
初夏を装った風が栗毛色の髪を優しく揺らし、そっと部屋の中に忍び込んだ。

同時刻、この部屋へと向かう2人の女性の姿があった。
白衣を着た2人は1Fのロビーを横切り、エレベーターに乗り込むと20Fと書か
れたボタンを押した。
「リラ、彼女の記録をもう一度見せて……」
扉が閉まり、エレベーターが緩やかに上昇を始める。
「もう何度も見たはずよ、イリメラ……」
リラと呼ばれた女性は、右手に持った艶やかなワインレッド色をしたノートP
Cをイリメラに渡した。
サイズはA4だが薄さは5㎜程しかないそのPCを開くと、イメリラはメイの
治療記録に目を通した。
「名前:メイ。国籍:日本人。身長163㎝ 体重46㎏ B88 W65 H88。
去年のクリスマスに交通事故に遭い、頭部外傷性による逆向性健忘となる。
身元は以前不明のまま。3ヶ月に及ぶ薬物治療も以前効果無し……か……」
独り言のようにつぶやくと、イリメラはPCを閉じた。

メイはバルコニーから部屋に戻り、窓の横にある鏡に映る自分の顔を見た。
その後ろには10畳ほどの部屋が映り込んでいる。
「これがあたし……。名前はメイ。このベッドで目が覚めて、もう3ヶ月にも
なるのに、知っているのはそれだけ。あたしの人生は3ヶ月しかないって言う
の? メイっていう名前だって……」
両手で無造作に髪を後ろにかき上げながら、メイは首を左右に振った。

エレベーターがF20に到着した。
その扉が開ききらないうちに2人はエレベーターから降りると、Room.No.
2009に向かって長い廊下を音もなく足早に歩いた。
「彼女の場合、やっぱり薬だけではダメかもね」
「あたしもそう思うわ、イリメラ。もしかしたら一生……」
「その可能性もあるけど……」
「やっぱり治療方針を変えましょう、リラ。その方が彼女にとっても……」
「ようやく決定ね。良かったわ、意見が一致して。でも今日のところは紹介だ
けに……。本格的な治療は明日からでいいでしょ」
「ええぇ、そうね。そうしましょう」

「あぁ、あたし一体どうしちゃったんだろう? こんなにも完璧に記憶が無く
なるなんて、本当にあるのね」
自分を映した鏡の隅に、白い壁に掛かった1枚のパステル画が半分ほど映って
いる。その絵をメイは振り返って見た。
黄緑色の背景に、水色の雨が筋のように書かれ、赤い傘に黄色い長靴を履いた
小さな女の子が、足元の水たまりに片足を入れようとしている。それは色鉛筆
で描いたような可愛い絵だった。
「雨、赤い傘……。何だろう? なにか、なにか思い出しそうなんだど……。
なんで思い出せないの? 薬だってちゃんと飲んでいるのに」

その時、ドアを2度ノックする音が聞こえた。

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女が女をじっくりと、生殺しのまま犯していく。その責めに喘ぎ仰け反る体。それは終わり無き苦痛と快楽の序曲。     
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更新日:日・水・土