TRI△ NGLE
Lと明美は意識のない桜子をベッドに寝かせると部屋を出た。
エレベーターで1階に下りるとホテルを出て、駅前のタクシー乗り場まで肩を並べて歩いた。最初に口を開いたのは明美だった。
「うまくいったわね」
「最初は本気になったかと思って心配したわ」
「実はチョットだけね。あの子可愛いんだもん。Lもそう思ったでしょ?」
「明美ったら。でもいいの? こんなことして」
「別に彼女を傷つけたつもりは無いわ。コレであの子も気が付いたかもね」
「気が付いたって?」
「あたしとLのコト。」
「それが目的だったの? 気が付かせるコトが」
「あのまま気が付かずにいる方が可哀想よ。多少は嫉妬も混じったけど」
「それであんなハードなことしたのね。明美らしくないなぁって思ってたの。あなただって、桜子ちゃんのコト、少しは……一目惚れだったでしょ?」
「そうね……そうかも。だからLにお膳立てを頼んであたしを誘うように仕向けてもらったのかもしれない」
「それであたしからの心変わりを狙った。でもあの子の気持ちは変わらなかった。それでSMの道具を持ち出して、今度は毛嫌いするように……」
「ええ、そう。でもあの子……」
「でも、それはそれで明美も楽しめたんじゃない?」
「まぁね。でもあの子があなたを思う気持ちは、変わらなかったわ。L」
「それで最終手段に出た。つまりあたしとの3P」
乗り場で待つ2人に、1台のタクシーが近付いてきた。
「そう、それで二人の中を見せつければって思ったの」
「あたしとの関係がバレるかもしれないのに?」
「結果的には正解だったわ」
タクシーの後部ドアが開き、明美が先に乗り込んだ。
「まぁそれで明美が良ければね、……あたしはここから歩いて帰るわ」
タクシーの屋根に片手をかけ、Lが車内を覗くようにして言った。
「えっ? 乗っていけば……」
「ううん、いいの。何だか歩きたくなっちゃった」
「そう、……ねぇ、Lはあの子の事……どう思ってたの?」
「そうね。楽しい三角関係だと思ってたわ……」
タクシーのドアが静かに閉まった。明美を乗せたタクシーは、街の灯りの中へ音もなく消えていった。蒼く輝く月の下で、Lがそれを見送った。
△エピローグ
朝、部屋で目覚めた桜子の横にLと明美の姿はなかった。
桜子はベッドから抜け出すと熱いシャワーを浴びた。
「やっぱり……そうだったんだ」
2人のキスを見た時、桜子の感じた予感。それが今は確信に変わっていた。
「Lと明美はずっと前から知り合い……、ううん、恋人同士だったんだ」
熱いシャワーが桜子の顔を伝って全身に流れ落ちていく。
「Lを愛している明美。そのLに想いを寄せていたあたしを、明美はどう思ったろう……邪魔な存在、三角関係、嫉妬。そんな思いが昨夜のあの責めだったのかもしれない」
もうあの店には行けないかもしれない。桜子はふとそんなことを思った。
白いバスローブを手に取ると桜子はバスルームを出た。
窓から差し込む朝日に輝く水滴が、涙のように体を流れ落ちた。
あの店であの人に出会って、すべてが始まった。
やっぱりあれは一目惚れだったと思うし、あたしは別に後悔していない。
霧が晴れ森が真実を現し、日が昇りあの星座は消えても……。
「L……、あなたのことが好きだった……」
コン! コンコン!
桜子の部屋をノックする音。
「はぁーいっ」
バスローブ姿で細くドアを開ける桜子。
そこにはフランス人形のような彼女の笑顔が……。
△ END △