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あなたの燃える手で

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すれ違いラプソディ


『魔女と伯爵』は、学生時代から出演を続けている小さなライブハウス。
もう長年出ているから、それなりにファンもいて、昔みたいに客席がガラガラ
ということはなくなりました。
今夜はこの客席のどこかに、まひるも来ているはずです。
まひるはあたしのライブを見る来る時、いつも楽屋には来ません。
だから出演間際まで、あたしはいつも一人でまひるとの余韻に浸っています。
でもいざ時間が来れば、あたしはギター1本でステージに立つのです。
そして今夜は、まひるが作ってくれた新曲を発表する日でもありました。

「前から出す出すって言って、ずっと出さなかった新曲。やっとできました」
小さなライブハウスが、いっぱいの拍手で溢れかえります。あたしは拍手が鳴
り止むのを待って話を続けます。
「ちょっと切ないバラードなんだけど……。あたしらしくて、これはこれでい
いかな? って思ってます」
ここでまた拍手が起こりました。今度の拍手は少しまばらです。
「いつも作詞作曲をしてくれて、あたしを陰で支えてくれている縁の下の力持
ち。親愛なるソングライターこと "まひる" に、この曲を捧げます」
そしてまた大きな拍手。そう、こんな大きな拍手に包まれていると、歌ってい
て良かった、そしてこらからもシンガーとして歌っていこうと、そんなことを
思える瞬間でもあるのです。
「それでは新曲、『すれ違いラプソディ』聴いてください」
そしてまた大きな拍手が……。そんな拍手とギターのストリングスが重なり始
めると、会場はスッと静まり返りました。

・・・
二人には少し狭いベッド
薄い毛布の中で あなたはタバコの味のキスをする
時計の音も消える それは小さな沈黙。
起きたあなたは、小さなグラスにバーボンを注ぐ
いつものように、小さな氷を3つ入れて
あなたが出て行くのを見るのが辛いから
あたしはベッドで背を向ける
あなたがどこかへ行きそうで辛いから
背中で聞いてる ドアの音
あなたが消えてしまいそうで辛いから
背中で聞いてる カギの音
もうこの音を 何度背中で聞いただろう。
長い長い沈黙は 寂しくなる永遠なる瞬間
あたしはグラスを引き寄せて、同じ場所に口づける
だって 二人がすれ違っていくようで辛いから
・・・

客席はほぼ満席。だけど照明が逆光になって、まひるがどこにいるのかよく見
えません。
そんな中ふとステージの袖を見ると、このライブハウス『魔女と伯爵』のオー
ナー『森下麻里絵』さんが、隠れるようにしてこっちを見ていました。
彼女は今年確か45歳になるかと思います。ずっと独身を通していて、昔はこう
いうところで歌っていたそうです。
みんなからは麻里絵という名前から、 "マリィさん" と呼ばれています。
もういいオバさんなんだから、と本人は照れていますが、実はまんざらでもな
いようです。
そんなマリィさんですが実は前々から、彼女があたしを見る目がちょっと違う
なって感じています。
その目はジンジンと熱く、ねっとりと粘りつくような、触手のように絡みつい
てくるような、そんな目でいつもあたしを見つめてくるのでした。

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女が女をじっくりと、生殺しのまま犯していく。その責めに喘ぎ仰け反る体。それは終わり無き苦痛と快楽の序曲。     
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更新日:日・水・土