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あなたの燃える手で

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秘密回診

9 ー最終話ー
最後の秘密回診から3日目。いよいよ退院する日がやってきた。
病室を出る時、あの不思議な回診のことが頭をよぎる。
あたしは自分なりに整えたベッドを最後に見ると、静かにドアを閉めた。
ドアを閉じる時のあの、 "カチャ" っていう小さな音が聞こえた。


1階に降り、受付の前を通る時、あたしは意を決して聞いてみた。
今日の今日まで、今この瞬間まで黙ってきたことを……。

「あのう……、秘密……」
やっぱり言えない、そりゃそうだ。それにこの受付の女性が、あの回診のことを
知っているとも思えない。
「あのう……、第一外科の梓野彩香先生はぁ……」
「はい? 第一外科の梓野彩香……? 先生……」
「今日はお休みですか、なら別にいいんですけど」
「あのう、そういう先生はこの病院にはいらっしゃいませんけどぉ……?」
「えっ? いない?」
「えぇ、ここに先生方の一覧がありますし、梓野って名前は聞いたこともない
ですねぇ」
あたしは意味がわからなかった。いや、頭が混乱した。
それじゃ、今まで真夜中に病室に来ていたあの人は……。
一体誰……? 誰だったの?
夢? 夢だったとでもいうのだろうか。あの快感も、あの絶頂も。そんなことあ
るはずがない。1度や2度ならまだしも、あの回診は10回はあったはずだ。
「本当に、本当にいないんですか?」
「えぇ、いらっしゃいませんねぇ」
「そう、ですか……」

あたしは肩を落とし、病院の正面玄関から表に出た。
外は抜けるような夏空だ。そんな青を縁取るように、入道雲がもくもくと広が
っている。近くの公園では蝉時雨がけたたましい。
あたしはとりあえず、正面玄関の脇にあるベンチにバッグを置くと、自販機で冷
たいお茶を買った。その時、ベンチ横の小さな植え込みに、白い百合の花が咲い
ているのに気がついた。



EPILOGUE
そう言えばこの百合の花……。
あたしが救急車でこの病院に運び込まれた時、チラッとみた覚えがある。
そうだ、あれは救急車からストレッチャーに移された時だ。
その時あたしは弱気になっていて。だからこの白百合に願ったのだ。
あたしを助けて、力を貸してと、この白い百合に……。
もしかしたら第一外科の梓野彩香先生って……。

何故かあたしは謎か解けたような、スッキリとした気分になった。
「さぁ、そろそろ行こう……」
そう思ってベンチから立ち上がると、一陣の風があたしの髪を揺らし、その風は
白い百合も揺らした。
同じ風に吹かれ、百合の花は嬉しそうに手を振るように揺れた。
まるで百合の花が、あたしを見送っているかのように。

「医者はねぇ、担当した患者さんが元気で退院していくのが一番嬉しいのよ。で
きればその姿を見送りたいくらいよ」
あたしは彼女の、そんな言葉を思い出していた。


ーENDー


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女が女をじっくりと、生殺しのまま犯していく。その責めに喘ぎ仰け反る体。それは終わり無き苦痛と快楽の序曲。     
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更新日:日・水・土